“運転打ち切り”ってどういう意味??
第40号
その日の午後0時52分。
秋葉原から乗った東京メトロ日比谷線中目黒行きの8両電車は、人形町駅まではなにも起こらなかった。人形町を出て茅場町にゆっくり近づいた時も、車内放送の車掌の語り口には何の変化もなかった。だから大部分の乗客には、それまでとなんの変わりもない次の駅名を告げるアナウンスに聞こえたはずだ。
ところが、「次は茅場町・茅場町・東京メトロ東西線をご利用の方は次の茅場町でお乗換えです」 で、終わる聞き慣れたアナウンスに、次のような内容が加わったのだ。
「この列車は次の茅場町で運転が打ち切りになります。」
えッ、それってどういう意味?
運良く秋葉原から座ることができた私は、一瞬、車掌が何を言いたいのか分からなかった。周りの乗客もなんの反応も示さなかった。
そして、少し間を空けて車掌がもう一度アナウンスした。
「この列車は車両故障のため、次の茅場町で運転が打ち切りになります。」
それって、次で降りろっていうことかな?
頭は、ゆっくり回っている。お昼ごはんを食べたばかりのせいなのか、乗客には相変わらずなんの変化も見られない。
この車掌はいったい乗客に何を言いたいのだろう。
運転が打ち切りになるということはどういうことだ?打ち切りになるから後のことは自分で推測しなさい、というのか?
なぜ乗客に具体的な行動を促すようアナウンスができないのだ。
3度目のアナウンスがあった。
「この列車は、次の茅場町で打ち切りになり霞ヶ関に向かいます。」
霞ヶ関に車両基地があるのは知っているが、打ち切りになる電車の行き先なんか乗客にはなんの関係もないじゃないか!この車掌は何を考えているのだろう。
アナウンスは、若い男性の声だった。
列車は茅場町のホームに滑り込んで行ったが、乗客にはなんの変化も見られない。
ホームで待っている人もいつも通りだった。むしろ彼らの態度からは、電車に早く乗ってやろうという意欲さえ感じられた。
ホームに着いても、車内アナウンスは「この列車はこの駅で運転が打ち切りになります。」だった。
やっと事態を察した何人かの乗客がのろのろ立ち上がった。その降りる乗客を押しのけ、ホームの乗客が列車に乗り込もうとした。その瞬間、緑の制服に赤い線の入った帽子を着用したベテランの駅係員が大きな声を出しながら電車とホームの間を駆け出しながらマイクで怒鳴った。
「お客様は全員降りてください。この列車は車両故障のため乗車できません。次の列車は続いて参ります。」
それを聞いて、今にも車両に押し入ろうとしていたホームの列の先頭にいた人々の気迫が一瞬で萎えた。
『鉄道接客レベルアップ講座』(三信 巌著 中央書院)に、「放送はあいまいな表現は避け、内容は出来るだけ具体的に」と書いてあります。
サリン事件でたくさんの被害者を出した東京メトロ日比谷線ですが、今回、お客様に分かりやすく、具体的な行動を呼びかける車内放送ができない乗務員が存在するという怖さを体験しました。
果たして、一乗務員だけの問題なのか、会社全体の教育の問題なのかは分かりませんが、コミュニケーションに致命的な欠陥があるのは確かなようです。
教訓:伝えなければいけないことは、はっきり伝えましょう。大切なことは「注意してお聞きください」という前提をつけて、聞く人の態度を変えてから伝えましょう。
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